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高松高等裁判所 昭和37年(ネ)142号 判決 1963年4月08日

控訴人 東雲健

被控訴人 大上孫重 外三名

主文

原判決を取消す。

本件訴訟は昭和三〇年六月一一日の経過とともに訴訟の取下があつたものとみなされて終了した。

右取下後の訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人等は松本源平に対し同人が(イ)徳島県名西郡下分上山村大字下分上山字三ツ木四四八番の一、保安林九町八反六畝一一歩および同所四四八番の二、山林二六町三反一〇歩の各持分一〇分の六につき、昭和二九年八月三日徳島地方法務局神領出張所受付第五二七号をもつて同人のためになされた共有権取得登記のうち同日付売買とあるのを昭和二一年三月二〇日売買と各更正登記手続をすること、(ロ)右各山林の持分一〇分の四につき、昭和二九年八月三日同出張所受付第五二五号の抹消登記によつて抹消された昭和二四年三月二二日同出張所受付第一二九号をもつて同人のためになされた仮登記仮処分命令に基づく仮登記の各回復登記手続をすること、(ハ)右各山林の持分一〇分の二につき昭和二九年八月三日同出張所受付第五二六号の抹消登記によつて抹消された昭和二八年一一月二〇日同出張所受付第七四一号をもつて近藤豊のためなされた共有持分移転請求権保全の仮登記の各回復登記手続をすることに同意せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は、控訴代理人において第一審被告田上霍太郎が死亡したことにともない被控訴人岩井タミヱ、同西窪貢および同田上実が前記各山林に関する権利の相続人として訴訟手続を受継する旨申立てたほか、すべて原料決の事実欄の記載と同一であるから、ここに引用する。

当裁判所は当審の口頭弁論を本訴の訴訟係属の有無の点に制限したが、その点につき控訴代理人は「本訴は昭和三〇年六月一一日の経過により訴取下の効果が発生した」と主張し、被控訴代理人は「本訴においてはおそくとも昭和三〇年六月一一日には口頭弁論期日指定の申立があつたとみるべきである」という意見である。

理由

本件記録によると、原審における昭和三〇年三月一一日の口頭弁論期日は、その呼出状が同年二月一一日に当事者双方代理人に交付送達され適法に告知されているのに、右期日には当事者双方とも出頭しなかつたことが明らかである。したがつて右期日から三ケ月が経過する同年六月一一日までに当事者のいずれからも期日指定の申立がなされない場合には民事訴訟法第二三八条によつて訴の取下があつたものとみなされて訴訟が終了することになる。そして本件においては原告(控訴人)代理人木村鉱名義の期日指定申立書が記録に編綴されているが、右申立書の日付はたんに「昭和三〇年六月 日」とあるだけで何日に作成されたものか記入されていない。しかも右申立書におしてある原裁判所の受付印の日付は同年六月一四日となつている。もつとも記録には右期日指定の申立書につづいて期日指定の命令書があつて(被控訴代理人が期日指定申立書の裏面に期日指定の記載がなされているというのは誤りである)、その日付は同年六月一三日となつている。そこでもし期日指定の命令書の日付が正しいとすれば、期日指定申立書受付印の日付は誤つているといわなければならない。しかしそれにしても右申立書が同年六月一一日までに提出されたことを認めさせる資料は存しない。(六月一一日は土曜、六月一二日は日曜であつたけれども、訴訟書類の受付は夜間でも休日でもなされ、しかも現実に受付けた日時が表示される取扱いになつている。)あるいは逆に期日指定命令書の日付の誤りとも解しえないものでもない(原裁判所の受付簿の記載も六月一四日に受付けたことになつているものの如くである)。以上説明のとおり本件においては双方不出頭の後三ケ月が経過する昭和三〇年六月一一日までにいずれかの当事者から期日指定の申立がなされた事跡が認められず、したがつて本訴は同日の経過とともに取下げられたものとみなされ終了したことにならざるをえない。

なお、口頭弁論期日に当事者双方が欠席した場合においても裁判長は爾後三ケ月内に職権をもつて更に期日を指定しうるものと解されているが(大審院昭和一二年一二月一八日判決参照)、本件の期日指定は前叙のとおり三ケ月内になされたとは認められず、三ケ月経過後にはもはや職権指定もなしえないと解すべきであるから、本件の期日指定を職権による指定と解して訴取下の効果が生ずるのを阻止することはできない。また期日指定の申立をなすべき三ケ月の期間は不変期間ではないから、その経過後に期日指定申立の追完をすることは許されない。(最判昭和三三年一〇月一七日参照)

結局本訴は昭和三〇年六月一一日訴取下とみなされ終了したものであるから、これを看過して本案につき弁論を続行し判決を言渡した原審の訴訟手続およびそれにもとづく原判決はすべて違法、無効である。しかし本訴は一応当裁判所に係属している外観を呈し原判決も形式的に存在するので、それらを消滅させるために、当審において判決をもつて原判決を取消して本訴が終了したことを宣するのが相当である。また本訴が取下げとなるまでの訴訟費用は民事訴訟法第一〇四条によつて負担が定められるが、取下げとみなされた以後(昭和三〇年六月一二日以降)の費用は正確には訴訟費用ではないが同法第八九条、第九五条を準用して第一、二審とも控訴人の負担とすべきである。さらに、原判決の被告田上霍太郎は昭和三一年一〇月一一日死亡し、控訴趣旨記載の各山林に関する同人の権利は岩井タミヱ、西窪貢、田上実によつて相続されていることが認められるので、右相続人三名を亡田上霍太郎の訴訟承継人として被控訴人になつたものとして取扱うのが相当であると解せられる。よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺進 水上東作 石井玄)

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